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金曜日。アフターファイブの誘いを断り、早々に家へ帰った。
帰省する実家ももうないため、荷造りなどは数年前に友人と行った旅行の時が最後だった。
かろうじてキャリーバッグは残っていたが、その他のトラベルグッズは買い直さざるを得なかった。
会社帰りに駅ナカの店で買い揃え、夕食もそこそこに荷造りを終えてみれば、時刻はもう23時を過ぎていた。
翌日は8時の新幹線に乗るつもりで、チケットも購入してきた。
東京駅までは30分以内に行けるとは言え、焦るのは嫌な性分だ。
少し早めに家を出ることを考えれば、もう休まなければなるまい。
そう考え、カラスの行水よろしく、短時間でシャワーを終えるとベッドに潜り込んだ。
そして、今日。東京を出発してから3時間が経った。
在来線に乗り換えて、大伯母が住んでいた地を目指している。
旅のお供にと持って来た文庫本も、開いてはみたものの集中出来ずに読めなかった。
皐月は、見知らぬ景色をぼんやりと眺める。
(──帰りは、どこかを観光して帰るのもいいかもしれない)
予期せぬ休暇に、先日までの鬱々とした気分も少しばかり晴れる。
と、その時。
鞄の中のスマートフォンが揺れた。
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