二、蛇の家

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 金曜日。アフターファイブの誘いを断り、早々に家へ帰った。  帰省する実家ももうないため、荷造りなどは数年前に友人と行った旅行の時が最後だった。  かろうじてキャリーバッグは残っていたが、その他のトラベルグッズは買い直さざるを得なかった。  会社帰りに駅ナカの店で買い揃え、夕食もそこそこに荷造りを終えてみれば、時刻はもう23時を過ぎていた。  翌日は8時の新幹線に乗るつもりで、チケットも購入してきた。  東京駅までは30分以内に行けるとは言え、焦るのは嫌な性分だ。  少し早めに家を出ることを考えれば、もう休まなければなるまい。  そう考え、カラスの行水よろしく、短時間でシャワーを終えるとベッドに潜り込んだ。  そして、今日。東京を出発してから3時間が経った。  在来線に乗り換えて、大伯母が住んでいた地を目指している。  旅のお供にと持って来た文庫本も、開いてはみたものの集中出来ずに読めなかった。  皐月は、見知らぬ景色をぼんやりと眺める。 (──帰りは、どこかを観光して帰るのもいいかもしれない)  予期せぬ休暇に、先日までの鬱々(うつうつ)とした気分も少しばかり晴れる。  と、その時。  鞄の中のスマートフォンが揺れた。
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