3/6
前へ
/84ページ
次へ
「…お願い申し上げましたこと、お聞き入れ下さりありがとう存じます」  と、老女はどこか疲れた声で言った。 「本来であれば、内々に済ませなければならないのでしょうが…私どもだけではどうにもなりませんもので」  自らの孫ほども年の離れた客人に対し、老女は縋るように助力を求める。 「ま、乗りかかった船ですしね。ご大層なことが出来るわけじゃないですが、出来ることはしますよ」  気安く答える男に、老女は安堵した様子で吐息を洩らす。 「もっと早くにこうしていれば、ここまでこじれなかったものを…」 「過去を嘆いてもどうにもなりませんよ。それに俺も、ご期待には添えないかもしれない」  謙遜した物言いではあるが、その真意はどうにも読めない。  室内だと言うのに外す素振りも見せない、濃い色のサングラスにその表情は隠されているせいであろうか。 「我が身可愛さで助けを求めたのなら、手を貸すつもりはなかったが…そうじゃないなら話は別です」  その癖、こちらの心中を見透かしたかのようなことを言うので、空恐ろしくもある。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加