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この男をどれほど信用したものか。
だが老女にはこの男の力に縋るしか、手は残されていなかった。
そのことをありありと物語るように、老女の青白い顔からは悲壮な色が漂っている。
「ご存知の通り、厄介な相手だ」
だがそうしたのはあなたがただ、と男は打ち据えるように言い放つ。
「重々承知しております。すべては祖先の過ち。けれども、それをあの子らにまで背負わせるとは、あまりに愚かな話でしょう」
「本当に、いいんですね」
老女は深々と頭を下げ哀願する老女に対し、男は念を押すように言った。
「常識やら良識が通用する相手ではないし、あなたの願いを叶えるには大きな代償を払う必要があるでしょう」
「それが、私に残された務めです」
顔をあげた老女の表情は、覚悟を決めた人間のそれである。
男はシャツの胸ポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出すと、老女へ差し出す。
「その時が来たら、そこへ連絡を」
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