4/6
前へ
/84ページ
次へ
 この男をどれほど信用したものか。  だが老女にはこの男の力に縋るしか、手は残されていなかった。  そのことをありありと物語るように、老女の青白い顔からは悲壮な色が漂っている。 「ご存知の通り、厄介な相手だ」  だがそうしたのはあなたがただ、と男は打ち据えるように言い放つ。 「重々承知しております。すべては祖先の過ち。けれども、それをあの子らにまで背負わせるとは、あまりに愚かな話でしょう」 「本当に、いいんですね」  老女は深々と頭を下げ哀願する老女に対し、男は念を押すように言った。 「常識やら良識が通用する相手ではないし、あなたの願いを叶えるには大きな代償を払う必要があるでしょう」 「それが、私に残された務めです」  顔をあげた老女の表情は、覚悟を決めた人間のそれである。  男はシャツの胸ポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出すと、老女へ差し出す。   「その時が来たら、そこへ連絡を」 
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加