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そう語るセツの表情は、真剣そのものである。
田舎によくある民話の類であろうと思うのだが、この家の人々はそれを信じ切っているらしい。
(丸め込まれてなるものか)
皐月は口を真一文字に引き結ぶ。
「いつの頃からか、金富の女は神を祀る役目を担うようになりました」
土が肥え、水が元どおりになると、村は以前の姿を取り戻したという。
そして危難を救った神を崇め、祀るようになった。
その役目を担ったのが、一人の乙女であったという。
以来、彼女と血を同じくする者がその役目を受け継いでいる。
「色々な事情があって、やめてしまった時もあるそうなのだけれど、そういう時には…」
言葉を濁す七重。
「おかしなことが起った、と?」
皐月の当て推量に過ぎないが、おそらく彼らの言わんとしていることを言い切る。
「ええ。そういう事情ですから、私どもが金富を継ぐわけにはいかないんです」
「けどそれを私に強制することはできませんよね。ご血縁の方は何人もいらっしゃるようですし、その中からお選びになってください」
その方が後腐れもないでしょう、と断じる皐月。
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