三、忍び寄る

2/23
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
 そう語るセツの表情は、真剣そのものである。  田舎によくある民話の類であろうと思うのだが、この家の人々はそれを信じ切っているらしい。 (丸め込まれてなるものか)  皐月は口を真一文字に引き結ぶ。 「いつの頃からか、金富の女は神を祀る役目を担うようになりました」  土が肥え、水が元どおりになると、村は以前の姿を取り戻したという。  そして危難を救った神を崇め、祀るようになった。  その役目を担ったのが、一人の乙女であったという。  以来、彼女と血を同じくする者がその役目を受け継いでいる。 「色々な事情があって、やめてしまった時もあるそうなのだけれど、そういう時には…」    言葉を濁す七重。 「おかしなことが起った、と?」  皐月の当て推量に過ぎないが、おそらく彼らの言わんとしていることを言い切る。 「ええ。そういう事情ですから、私どもが金富を継ぐわけにはいかないんです」 「けどそれを私に強制することはできませんよね。ご血縁の方は何人もいらっしゃるようですし、その中からお選びになってください」  その方が後腐れもないでしょう、と断じる皐月。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!