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 その冬、ある村では数十年に一度とも言われる豪雪に見舞われた。  もともとそんなに雪の降る土地柄ではなかったこともあり、近隣の町や村では秘かな騒動を生んだ。  ──たんなる異常気象だ。そんなに騒ぐことでもあるまいに。  そう言う者は一人としていなかった。  何故ならばその村には、ある噂が囁かれていたからに他ならない。 「あの村には近づかんがええ」  年寄りはそう険しい顔で言う。 「蛇に喰われてしまうでね」  その村を知る者が皆、口を揃えてそう言う。  田舎特有の因習であろうが、いかんせん不気味なものだ。  村で起こった異常に、皆畏怖している。  自らにその災厄が降りかかることを恐れているのだ。  そして何事もなかったかのように春を迎え、村の一人の老女が死んだ。 
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