三、忍び寄る

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「なぜですか? 母はこの地を捨てたのでしょう? わざわざ会いに来るなんて…」 「佐波様曰く、この家は血に縛られているのだそうです。例え土地を離れたとしても、それはついて回るものだと」  佐久間は慎重に言葉を選び、語る。 「一人目のお子様が男子だったので、呪いを逃れられたものと、そう思っていたそうです。ですが、皐月様がお生まれになって、事情が変わった」 「私?」 「金富の家は、女が継ぎます。そうでなければ、呪いはこの土地に住む者すべてに降りかかる」 「確かセツさんもそのようなことを言ってましたね…。でも、女の人なら他にもたくさんいるじゃないですか。何も母や私でなくてもいいのでは?」  セツを初めとして、佐波の姉妹はまだ存命なのである。もちろん、その子女もいるだろう。  普通に考えれば家を捨てた弥生や、その娘の皐月に固執する理由があるようには思えない。 「当主となる女性には、印が現れるのだそうです。その印のない女性が家を継ぐのは許されず、何代か前に当主の座を無理矢理奪った方がいたそうですが、その際は変事に見舞われた…と」  古い家ならではのしきたりとか、そういった次元の話ではない──佐久間の話を聞くにつれ、皐月は背筋に冷たいものを感じ出す。  呪いなんて非科学的なものを、この家の人達は盲信している。そして、そうさせるだけの何かが、過去にあったということではなかろうか。 「…じゃあ、母にはその印があったということなんですね?」  皐月の問いに、佐久間は静かに頷く。
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