一、知らせ

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 二つ年下の彼とは、三年前に友人の紹介で知り合った。 女の自分が年上ということに尻込みしていた皐月に、猛烈にアプローチしてきたのは他でもない彼のほうだ。  およそ一年付き合った頃だろうか。彼は仕事で望んだポジションに就くことが出来たと、嬉しそうに語っていた。  その当時は新卒に毛が生えた程度のお給金しか貰っていないことを知っていたし、デートの際には彼のプライドを傷つけないように、秘かに大目にお金を出したりもしていた。  そんな彼が、私の指にそっとこのリングを嵌めてくれた。  ─仕事をバリバリ頑張って、君を養っていけるようになったら改めてプロポーズします。  大真面目な顔して言うものだから、呆気にとられてしまったけれど、心の底から嬉しかった。  既に父母は亡くなっているし、ただ一人の兄も長らく海外から帰っては来ない。  親戚縁者とも疎遠な私にとって、初めて出来た大切な人。  ああ、この人となら生涯苦楽を共に出来る。  そう思ったのに。  いつ頃からだろうか。彼が「仕事が忙しい」と理由をつけて会ってくれなくなったのは。
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