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「いやー、暑いのなんの。クーラーがありがたい!」
後部座席に乗り込みながら、男は感嘆の声を上げる。
見た目も相まってか、どこか軽薄そうな印象を受けるのは否めない。
「よし、ちゃんと連れ出してきたな、弁護士センセイ」
助手席の皐月を示して、男は揶揄するような口調で頷く。
「ええと、加賀美さん。このあと、どうすれば」
「とりあえず、どっか喫茶店とかない? 喉乾いちゃってさぁ」
『呪い』がどうのこうのと、割と尋常ならざる状況にあるのが分かっているのかいないのか。お気楽なやりとりに、皐月は脱力する。
「隣の市へ行けば、チェーンのカフェがいくつかありますけど。遠いですよ?」
「隣の市か……。そりゃ、まずいなぁ」
「まずい?」
男──加賀美は皐月を指し示し、「ずいぶん絡まっちまってる。あんまり猶予はない」と告げる。
「何が……?」
と、皐月は問い返すが、加賀美はそれには答えない。
「土地の人間の耳がないところ、あるかい? 感づかれると厄介なんでね」
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