一、知らせ

3/21
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
 ちょうど、今から十ヶ月前。  私がお客様相談室の室長補佐に昇進した頃だ。  今の会社に新卒で入社してから、何度か部署変更を経て今のお客様相談室に配属になった。  基本的にクレーム対応ばかりで、やりたい仕事ではない。けれど、他にやりたい仕事もないものだから、惰性で続けてきたようなものだ。  同時期に配属された同僚は辞め、新人も入れ替わり立ち代わり…いつしか一番の古株になっていた。  だからこその、室長補佐への昇進。他の社員のように泣き言を言ったり辞めたりしない私は、会社としては有り難いが、女だからと処遇に困っていたのだろう。  どうしたって、渉外対応の責任者は男性の方が適任である。女だと分かった瞬間、罵倒してくるような相手もいる。  そんな鬱々とする仕事も、彼と結婚すれば辞められるのかしら─。  漠然とそう考えていた。だから、昇進の話は一度断ろうと思っていた。けれど、上司の再三の説得に応じる形で、この話を受けたのだった。 「補佐だけど、一応役職を与えられることになったから、しばらく忙しくなるかも」  そう彼に告げた時、「おめでとう」と告げる彼の声が冷たくなったように感じたのは、今思うと気のせいではなかったのかもしれない。  二年という追いつけない差がある上に、女だてらに役職に就いた。この事実が、彼の何かを傷つけたのだろうか。  今となっては真偽を確かめることなど出来ないけれど。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!