三、忍び寄る

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三、忍び寄る

「金富の当主は、巫女のようなものなんですよ」  重い口を開いたセツが継げたのは、ある昔話であった。  かつてこの村はひどい飢饉に見舞われ、村人の半数が死に絶えたという。  山間の小さな集落であることが不幸の始まりであった。  険しい山道に阻まれ、近隣の人々は滅多に訪れぬ。  行商人も来ない土地とあっては、飢饉の事実に人が気づく可能性は低い。  土が痩せ、水が枯れる頃には、あっという間に動ける村人は減ってしまっていた。  それでも何人かの男が食糧を得ようと、弱った体を引きずるように村を出て行った。  残されたのは老人や病人、そして女子供だけであった。  もはや神仏に(すが)るしかないと決めつけ、食べる物も尽きたものだから、起きている間中ずっといるとも知れない神に祈っていたという。  村を出た男は、いっこうに戻らない。  何日、何十日と時が過ぎていく。  一歩、また一歩と滅びの足音が迫っていた。  そんな村を救ったのは、助けを求めた神。   「信じられない、という顔ですね。けれど、村とこの家には実際にあったこととして語り継がれています。そして、今もそれを信じているのです」
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