手紙を書くのは時間がかかる。

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手紙を書くのは時間がかかる。

「んーっ!」  この地域の朝は心地いい。背伸びをしながらそんなことを思う。空気が引き締まっていて、太陽の熱が体に染み渡ってくる。自然の前には、人の悩みなんてちっぽけだ。 「おはよー!結衣!」 「…空乃は、今日も元気だねぇ…」  横に並んで歩くのは空乃。学科が同じで大学に入ってからはほぼ毎日一緒にいる。空乃は浪人したらしくて歳は1個上だけど話しやすくて仲良くなるまではあっという間だった。 「元気だけが取り柄みたいなもんだからねぇ…って!めっちゃクマできてるじゃん、どったの!?」 「いやぁ、手紙がなかなか書き終わらなくて。どうしようもなかったっていうか…。」 「あ、例の彼氏だっけ?」 「うん、そんな感じ…かな。」  昨夜は彼への手紙を書いていて夜遅くまで起きていた。彼への手紙を書くときはいつも夜遅くまでかかってしまう。それは文通を始めて数ヶ月経った今も変わらない。…昨日は普段より時間がかかってしまったが。 「にしても今の時代で手紙なんて書く?ラブレターじゃあるまいし…」  確かに付き合っているカップルがこのご時世に文通なんて話は聞いたことがない。アニメでさえそんな作品は時代に沿ってないだろう。SNSをはじめとした通信技術も、交通機関による移動手段も発達した。会おうと思って会えないことなんて、ほとんど…ない。 「あー…彼ね、携帯電話もインターネットも持ってないから。」 「はぁ!?なにそれ、昭和の人間なの!?」 「彼さ、東京に上京したから、極力お金払いたくないって。って、同じ話をずいぶん前にしたよね!?5月とかに!」 「あーそんな気もする…じゃあもう6月も終わるから、2ヶ月も文通してるの?飽きないねぇ…」 「出すのは週に1回だし、相手の返信を待つからね。ただ…。」    …直接会いたい。2ヶ月でその言葉を口にするのは、卒業式の私の意思を裏切るようで申し訳なかった。 「ただ…?」 「ううん、なんでもない。ほら講義始まるよ、早く行こう。」  話を逸らして前を歩く。こうしてしまえば空乃は深追いしてこない。 「ハイハイ、惚気だらけも辛いからねー」  空乃の余計な言葉は的外れもいいとこだ。私は足を早めて大学へと向かった。
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