はじまり。

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はじまり。

 彼…石川総一と付き合い始めたのは、高校の卒業式の日だ。 「ずっと好きでした、付き合ってください」  卒業式には珍しく、桜が咲いていたことをよく覚えている。最近は地球温暖化の影響で季節感のあるものが残っているのは珍しい。例年、卒業式の時期は桜のサの字も無かった。だから、その年は珍しかったんだと思う。 「え…。あー…本田?」  彼はそれ以上に珍しいモノを見るように私を見た。彼とは同じクラスだったけど、あまり喋らなかった。いや、喋れなかった。私はそんなに明るいキャラではないから、彼のような人生を楽しく明るく生きているような人には近づけなかった。…学校では。 「その…学校では全然話せなかったけど、私、総一くんのライブ、よく行ってて」  唯一、彼に近づけたのはライブだった。彼は軽音楽部でライブをよくやっていた。ライブハウスで聞く彼の声は私に活力を与えてくれた。元気がもらえるというのはこういうことだと思う。そこから恋に落ちるまでは簡単で、自然と彼のことを目で追うようになって…。気づけば今、こうして告白している。 「あーその。嬉しいんだけど、俺さ、上京するから、その…」  彼は申し訳なさそうに言葉を探している。彼が上京することは噂で知っていた。彼のような人気のある人の話は自然と耳に入ってくる。ただ、それを断る理由にされるのは、少し嫌だった。 「あ、そうなんだ。そっか…」 「うん、そういうことだからさ、俺…」  想いを伝えて、断られて。どうせなら、嫌いだと言われたほうがマシだ。私は引き下がらずに続けた。 「その…私!遠距離でもいいから!」  側から見たらなんて無様な姿だろうか。彼は困ったような顔をして、口を開いた。 「え…あぁ…じゃあさ。上京してから連絡手段無くなるから、手紙でもいいかな」 「手紙?」 「そう、文通。手紙でお互いの近況を伝え合うんだ」  彼と付き合える。遠距離恋愛だって恋愛だ。恋という気持ちは変わらない。文通だって、なんだって、きっと上手くいく。桜の花びらが風に舞う。彼は微笑んだ。その時の景色を私はずっと忘れない。  彼は数日後、上京した。引越しの準備が忙しいらしく彼とは一度もあわず、東京にいく新幹線の前で引越し先の住所を貰った。  そして、彼と私の文通での遠距離恋愛が始まった。
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