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おっさんに その段ボール箱の中身を聞くと 閉店する同じような店から引き取った物が雑多に詰まっているようだ。 「そうそう、その段ボールの中身の物も 氷咲くんに みてもらおうと思ってたんだ」 段ボールを開け、中身を確認する。 木製コースター、湯飲み、絵皿、懐中時計... ひとつずつ手に取り 問題ない、これも、と チェックしていく。 ...これは 元の持ち主のとこに帰りたがってんな。 そういうのは、脇にどけておく。 次に、手鏡を手に取った。 「あっ」 「えっ? 何? どうしたの?」 これだな。 「これ、ヤバイっすねー」 ブロンズのフレームの手鏡には 持ち手にも背面にも 葉の模様が彫られていて 鏡面には 少し腐食も見られた。 「やばいって、どんな?」 おっさんは 興味津々な表情だ。 「怨念っすね。 鏡面は あんまり見ないほうがいいっすよ」 端があちこち腐食した鏡面には、憎悪の眼をした 青白い皺肌の女が覗いていた。 おっさんは、オレの言ったことに腰が引け 茶色い厚紙を持ってくると、それに手鏡を包む。 「氷咲くん、なんとか出来ないかな?」 「あ、オレ無理っす。 もっと力がある人に頼むか、お寺とかに引き取ってもらった方がいいっすね」 「うーん、そうかぁ... 鏡自体はかっこいいんだけどなぁ」 「でも、念が強すぎますねー。 そのうち悪いもん呼びますよ、それ」 おっさんは慌てて、厚紙に包んだ鏡をレジの棚に置いた。今日明日にも寺に持っていくらしい。 「あと、この懐中時計は元の持ち主がわかったら そこに戻してやったほうがいいです。 ここに置いといたり、他の人に買われても 動くか なんかしますね。寂しくて。 他の物は、特には問題ないです。 さっきの硝子の 一輪挿しは、出来たら売らずに店に置いといた方がいいっすよ。 あの鏡のことを伝えようとしてたし、店とオーナーさんを気に入ってます」 仕事の料金は、いつものように振り込んでもらうことにして、オレは古物店を出た。
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