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取り付けられていた鍵は、ドアを傷つけないタイプの簡易的なやつで 簡単に取り外せた。 「失礼します」と、ドアを開けると 目の前に その息子がいて 笑いながら オレを押し退けようとする。 ベッドに力なく座っていた父親が立ち上がり 涙ぐんで「もう、やめてくれ」と 息子を後ろから引き止めた。 中学生の息子、と聞いていたけど まだ小学生のようにも見える。 背は150センチくらいで、腕も脚も細い。 眉間に皺を寄せてオレを睨み、歯を見せて唸っているが、幼い顔付きをしているのがわかる。 なんか 痛々しいよなぁ... オレは 息子と眼を合わせ 「ごめん、ちょっといい?」と 額に右手を置いた。 眼を見ながら、憑依したものを探すと それは すぐに見つかった。 獣憑きだ... 狐だな。 狐は昔から人に憑くっていうけど、実際に見たのは初めてだった。めずらしいな... 『...琉地』 声を出さずに 唇で琉地を呼ぶと 琉地は すぐに来た。 白い煙がコヨーテの容貌を取り始めると 息子は唸るのをやめ、みるみる焦り出す。 「お父様、息子さんから ちょっと手を離してみてください。 ベランダを少しだけ開けてもらっといていいですか? あ、でも 息子さんは外に出ないように 気を付けてくださいね」 父親にも、息子の身体から力が少し抜けたのがわかったようだが 恐る恐るといった感じで、ゆっくりと 息子を取り押さえていた腕を解く。
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