5/6
前へ
/171ページ
次へ
仁成(ひとなり)!」 狐が離れると、息子は気を失った。 オレが両肩を掴んでいたままだったのもあり 倒れてしまう前に、父親も手を伸ばしたので 息子... 仁成くんは床で頭を打たずに済んだ。 部屋のドアの前に立ち尽くして様子を見守っていた母親も 駆け寄ってくる。 「あの、息子は... 」 「狐が入ってました。 たぶん、息子さんは優しい子だと思うので 寄って来てしまったんでしょうね」 これは本当のことだ。 狐が抜けた後、この子の本質がそのまま前に出てきた。 ただ、優しいから、付け入る隙も出来てしまう。 琉地が 仁成くんの頬を舐めると 仁成くんは眼を開けた。 「... お父さん? お母さんも」 「仁成! よかった、わかる?」 「えっ? 何言ってるの? えっ? ちょっと... お父さんも お母さんも 離してよ!」 父親は、一度強く仁成くんを抱き締めると 立ち上がって、オレの手を取った。 「ありがとうございます、本当に」 顔を くしゃくしゃにして泣いている。 「いやっ、今回はたまたま オレの手に負えただけです。頭を上げてください!」 「どう感謝を伝えたらいいか... そちらの狼さんにも」 「えっ?」 見えるのか? 琉地は オレの隣に座って、あくびしている。 「後ほど、改めて お礼したいのですが 今は とりあえずこれだけ... 」 父親はズボンのポケットから財布を出して 札を全部抜き、その札...三万と何千円かを オレの手に押し付けた。 「あっ、ちょっと待って下さい! こんなに いらないっす!」 返そうとするオレに、父親も両手の手のひらを向け「いや! 受け取ってください、どうか」と 更にぐいっと押し付けてきた。 三万と何千円かは、オレの胸と父親の手に挟まれて、オレの手の上から落ちそうになっている。 「うーん... じゃあ いただきます... 」 なんだろう... 負けた気分だ。 今回、こんなに貰うほどのことしてねーし 交通費込みでも せいぜい二万くらいなのに。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1061人が本棚に入れています
本棚に追加