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「そうだわ、あなた」
離れてー!と、もがく仁成くんに
腕をがっちり回したまま、母親がこっちに
泣き笑いの顔を向ける。
「今夜、氷咲さんに食事に来ていただいたらどうかしら? 私、腕をふるうわ」
「うん、それはいいね」
「ああっ、ちょっと待ってくださいっ!
僕、夜も依頼が入っちゃってるんです!
すみません、本当に!!」
札を握ったまま 早口で言うオレに
父親と母親は ガッカリした視線を向けた。
「お仕事ですか...
それなら 仕方ないですね」
「家内の料理はうまいんですが... いや、でも
誰かが息子のように困っているのなら...
あっ そうだ、振り込み先を教えて下さい」
「やっ、いいっすマジで!
食事は またいつか誘ってください!
今日は ご家族でゆっくり過ごされた方が... 」
オレは、また早口で
もうこんなことはないことを祈るが、また何かあったら連絡してほしいってことと
周りで困ってる人がいたら相談承ります、ってことを伝えて
「じゃっ、失礼します!」と、玄関に向かう。
「お兄さん」
仁成くんの声に振り返る。
「...なんか、夢 みて
それで、あの、ありがとう」
おうおう、照れ臭そうに。
頑張って言ってんのが かわいいしぃ。
仁成くんに 笑って手を振ると
なんか柔らかい気分で 玄関を出た。
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