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「... 天におられる 私たちの父よ」 氷咲家の食事はいつも、母さんが祈ってから始まる。 母さんの祈りが終わるまで、父さんもオレもリンも、両手の指を組んで静かに俯き、食事に感謝する。 「...私たちの日ごとの糧を、今日もお与えください」 オレもリンも 小さい時に洗礼はしているようだけど 母さん以外は 普段は特に何もしていない。 普通に、盆には 墓参りに行って 正月は 御節や雑煮を食べる。 でも子供の頃から、母さんが祈る声は好きだった。 無駄なものがなくて、きれいだから。 「...私たちを誘惑におちいらせず 悪からお救いください アーメン」 「アーメン」 「じゃあ、いただきましょうか?」 「いただきまーす」 ここから母さんが 大皿の料理をみんなの皿に取り分ける。で、やっと手にグラスや箸を持つ。 こんな感じなので、実家にいた頃は 友達ん家に泊まりには行っても、泊まりに呼ぶことはなかった。 だが、家族や、こういうことに不満を感じたこともなかった。 父さんも母さんも、オレやリンの意志を出来るだけ尊重してくれるし オレやリンも、自然と家族にそうする。 「...でね、今日は ニイが イタリアに持って行く トランクも買ってくれて」 いや、これは尊重出来ねーだろ。 オレが 皿のペンネから眼を上げると 父さんと母さんは そっぽを向いた。
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