一章 黄金姫

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「揃いで誂えたのですから、着ていただかないと衣装が泣きますわ」  リネットが言うと、二の句を継いで 「そうよ。私だけ着飾ってみんなの前に出るなんて、おかしいじゃない」  とセラも言った。  女二人に言いくるめられれば、逆らえるはずもなかった。  ロットはセラに手を引かれて、渋々といった様子で室内へ入る。  イムスタリア最大の慶事(けいじ)である、セラと龍の青年・ロットとの婚礼は、もう来月に迫っている。  期待に胸踊らせているのは、何もリネットだけではない。  国民のすべてが、その熱に浮かされている。  セラが生まれて十六年。  そして、ロットがこの国にやってきて十年。  その日を、今か今かと待ち望んでいたのだから、無理もないことだ。  当事者であるセラからしてみると、人々の期待や喜びの声は、どこかくすぐったくもあり、若干の居心地の悪さを覚えもする。  しかし、それで彼らが喜んでくれるのであれば、衣装の窮屈さなど我慢しよう──そう思い、いまだ渋るロットに衣装を差し出すのであった。  ◆◇◆
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