一章 黄金姫

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 先日生まれたばかりの娘は、不思議な石を持って生まれてきた。  それと同じくして、金が採れるようにはならなかったか? と。  モリスの脳裏に浮かんだのは、イムスタリアの東にある大陸に伝わる伝説。 ──龍が降り立った地には金が湧くと言うが…。  てっきり夢物語だとばかり思っていたが、あながち嘘ではないのかもしれない。  伝説と同様、不思議な石を持って生まれた娘の誕生と同じくして、イネス島は稀に見る富に恵まれている。  モリスは妻にそのことを告げた。  そんなことがあり得るのかと、妻も半信半疑といった様子であるが、己の産み落とした娘には不思議なことばかりが起きる。  夫婦は夜を通して話し合ったが、結論は出ない。  そもそも、龍が降り立ったという伝説とて、数千年も前のことなのだ。  当時を知る者は誰一人としていなければ、詳細な文献も残っていないと聞く。  噂によれば、百数年ほど前にとある国でも同じような子供が生まれたそうだ。  しかし、イムスタリアと直接の国交がない上、遠い国のことであるため真偽のほどはわからない。  人から人、口伝えの噂しか届いてこないのだから、その噂とて真実とは限らない。
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