序章

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 だが、伝説は確かに()った。  とある小国で、不思議な石をその手に持ち生まれた赤子がそれを証明した。  赤子の手に収まるほどの、小さな丸い石。  つやつやと濡れたような輝きを常に放ち、息づくように揺らめく色を持つそれは、どんな宝石も叶わない美しさを持っていた。  それだけではない。  不思議なことに石は、決して子供から離れることはなかった。  ある日心無い者が子供から石を奪ったが、いつの間にやら石は子供の手の中に戻っていた。  そういったことが何度かあって、石は子供から取り上げてはいけないのだと、誰しもが理解をした。 「この子は特別神様に愛されている」    村の誰かがそう言ったが、それを否定するものは誰一人としていない。  それもそのはずで、子供が生まれて以降、貧困(ひんこん)(あえ)いでいた村の暮らしぶりは上向きになっていったのだ。  国中で流行っていた疫病(えきびょう)も、村を中心として徐々に収束していった。  いつしか近隣の村や町にも『神の子』が生まれたとの噂が広まり、その恩恵(おんけい)にあやかろうと人々が子供のもとを訪れるようになった。
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