序章

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 真夏。晴れの日。束の間の雨。  大きな雨粒は太陽の光にキラキラと輝き、地面に落ちる。  しばらくの間ぬるい雨を楽しんでいたが、空の端に不自然な影を見つけると、その影に意識を奪われた。  なぜだろう。とても気分が高揚している。  体中の血液が沸騰するかのような、熱い感情が駆け巡る。  影はどんどんと大きくなっていき、その全容が視認(しにん)できる距離まで近づいた。  大きな体をくねらせるように、空を()んでいる。  雨粒に混ざって、青年の足元には小さな水の跡が増える。  知らず、青年は涙を流していた。  ──ついに待ち望んでいたものが現れた!  それは歓喜の涙であった。  何故、そう思うのか。生まれた時から知っていたことだからだ。  小さな皮袋に入れて首から下げている例の石を、ぎゅっと握りしめる。  そうこうしているうちに、影は青年の頭上までやってきていた。  雨に濡れ、つやつやと輝く大きな(うろこ)。  家一軒分はあろうかという巨体。  蝙蝠(こうもり)の羽にも似た一対の翼が、風を起こす。  古い伝説を記した書物に載っていた、とある生き物に酷似しているその姿。  ──龍だ。
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