3人が本棚に入れています
本棚に追加
真夏。晴れの日。束の間の雨。
大きな雨粒は太陽の光にキラキラと輝き、地面に落ちる。
しばらくの間ぬるい雨を楽しんでいたが、空の端に不自然な影を見つけると、その影に意識を奪われた。
なぜだろう。とても気分が高揚している。
体中の血液が沸騰するかのような、熱い感情が駆け巡る。
影はどんどんと大きくなっていき、その全容が視認できる距離まで近づいた。
大きな体をくねらせるように、空を翔んでいる。
雨粒に混ざって、青年の足元には小さな水の跡が増える。
知らず、青年は涙を流していた。
──ついに待ち望んでいたものが現れた!
それは歓喜の涙であった。
何故、そう思うのか。生まれた時から知っていたことだからだ。
小さな皮袋に入れて首から下げている例の石を、ぎゅっと握りしめる。
そうこうしているうちに、影は青年の頭上までやってきていた。
雨に濡れ、つやつやと輝く大きな鱗。
家一軒分はあろうかという巨体。
蝙蝠の羽にも似た一対の翼が、風を起こす。
古い伝説を記した書物に載っていた、とある生き物に酷似しているその姿。
──龍だ。
最初のコメントを投稿しよう!