一章 黄金姫

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一章 黄金姫

「ついにご婚礼の日がやってまいりましたね」  年嵩(としかさ)の女性が、感極まった様子でしみじみと呟く。 「やあね、随分(ずいぶん)と気が早いわ。まだ来月の話じゃない」  くすくすと笑うのは、金糸銀糸で豪奢(ごうしゃ)な刺繍が(ほどこ)されたドレスに身を包んだ少女。 「何をおっしゃいますやら。私はこの日が来るのを十六年も待っていたのですよ。もう来月、でございますよ」  少女の亜麻色の髪に(くし)を入れながら、女性は冗談めかして言った。 「実感がないわ。だって住むところは今と変わらないわけだし、誰かが増えるわけでもないじゃない」 「何かが特別変わるわけでなくても、ご婚礼の儀式というものは重要でございますよ」  櫛を置くと、少女の長い髪をふわりと纏める。 「やっぱり髪はあげたほうが良いかしら。編んでしまうのも良いかと思うのですが…」   「リネット、そんなに気張らなくても…普通でいいのよ」  鈴が鳴るような声で笑う少女の名は、セラ。    年は十六。  豊穣(ほうじょう)の姫、あるいは黄金姫(おうごんひめ)と呼び称される、ここイムスタリア王国の貴族の娘だ。  セラの胸元には、赤ん坊のこぶし大ほどもある光り輝く石の首飾りが揺れている。  金の台座に据えられた石は、様々な色に変化するなど、神秘的な色彩を放っている。  彼女が冠している名前からも分かる通り、セラはイムスタリアにとってなくてはならない富をもたらす尊い娘。  セラのが持つ石は、その象徴と言えよう。
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