一章 黄金姫

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「派手なのも、動きにくいのも好きじゃないわ」  自身の身を包むドレスに目をやり、セラは溜息を吐く。 「裾が長いから動くのも大変だし、刺繍がたくさんしてあるから重いわ。大陸風のドレスってみんなこうなの?」  リネットと呼ばれた年嵩の女性が着ているものはと言えば、体の線がはっきりと出る、薄い布地で出来た上衣(うわぎ)と裾の長いスカートを合わせたものだ。  薄い布地は温暖な気候のこの国で過ごすのにふわさしい。  それと比べるとセラが着ているドレスには、布地がふんだんに使われており、腰から下はふわりと広がって裾は床に広がっている。 「国を挙げてのご婚礼ですもの。きちんと見栄えのする格好でないと、あとあと何を言われるか分かりませんよ」  喋りながらも手を動かしていたリネットは、手早くセラの髪をまとめてみせる。 「私の結婚式なのに、ひとつも私の自由に決められることはないのね」  そう口を尖らせてセラが言うのに、リネットは「そういうものです」と苦笑する。 「イムスタリアでは初めてのことですし、他国を例に見ても百数年ぶりのことだそうですよ」  リネットの言葉に、セラは胸で揺れる石を手に取る。  見るたび色を変える不思議なこの石は、母親の胎内にいた頃から持っていたと聞かされている。  生まれたばかりのことなど、微塵(みじん)も覚えてはいないが、今に至るまで肌身離さず持っているし、一時(いっとき)でも外そうものなら、たちまち不安を覚えてしまう。  とても大切なものであるし、なによりこれは彼との繋がりの証。  生まれてから十六年。今までの人生についてセラが考えを巡らせていた、その時。
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