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「派手なのも、動きにくいのも好きじゃないわ」
自身の身を包むドレスに目をやり、セラは溜息を吐く。
「裾が長いから動くのも大変だし、刺繍がたくさんしてあるから重いわ。大陸風のドレスってみんなこうなの?」
リネットと呼ばれた年嵩の女性が着ているものはと言えば、体の線がはっきりと出る、薄い布地で出来た上衣と裾の長いスカートを合わせたものだ。
薄い布地は温暖な気候のこの国で過ごすのにふわさしい。
それと比べるとセラが着ているドレスには、布地がふんだんに使われており、腰から下はふわりと広がって裾は床に広がっている。
「国を挙げてのご婚礼ですもの。きちんと見栄えのする格好でないと、あとあと何を言われるか分かりませんよ」
喋りながらも手を動かしていたリネットは、手早くセラの髪をまとめてみせる。
「私の結婚式なのに、ひとつも私の自由に決められることはないのね」
そう口を尖らせてセラが言うのに、リネットは「そういうものです」と苦笑する。
「イムスタリアでは初めてのことですし、他国を例に見ても百数年ぶりのことだそうですよ」
リネットの言葉に、セラは胸で揺れる石を手に取る。
見るたび色を変える不思議なこの石は、母親の胎内にいた頃から持っていたと聞かされている。
生まれたばかりのことなど、微塵も覚えてはいないが、今に至るまで肌身離さず持っているし、一時でも外そうものなら、たちまち不安を覚えてしまう。
とても大切なものであるし、なによりこれは彼との繋がりの証。
生まれてから十六年。今までの人生についてセラが考えを巡らせていた、その時。
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