一章 黄金姫

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 ゴォっと、空が啼いた。  窓の外に目をやれば、よく晴れた空の先に大きな影が見える。 「ちょうどいい時にいらっしゃいましたね」  リネットに促され、セラは窓の外のテラスへ出る。  体をくねらせながら、大きな影はまっすぐにセラのいるテラスへと空を()けてくる。  太陽に照らされてキラキラと光るのは、ルビーのような赤い鱗。  巨大な蛇にも似たその体を空中で支えるのは、蝙蝠(こうもり)の羽に似たピンと皮の張った一対の翼。  ゴウゴウと風が唸りをあげるのは、力強く羽ばたく翼が風を巻き起こしているためだ。  さながら空を蹴るように、力強く翔ぶ。  かつてその生き物を崇めた人々が、その姿に神性(しんせい)を見出したのも無理はない。  それは、龍と呼ばれる生き物。  力強く、猛々しい。それでいて、高潔で美しい姿。  セラは、その龍に見初められた娘として、国中の期待を背負っている。  龍は風を逆巻かせながら、ふわりとテラスへと降り立つ。  この巨体だ。かなりの重量があるだろうに、何の音も振動も感じられない。 「それが婚礼衣装か?」  鋭い歯がいくつも並ぶ大きな口から、柔らかな声が放たれる。  口調はそっけないし、どこか粗暴さすら感じさせるが、セラを見る赤い瞳には優しい色が宿っている。 「ええ。大陸風なのですって。私はいつもの格好の方が好きだけれど、変じゃないかしら?」  不安げに手に取ったドレスの裾が、ふわっと舞い上がる。  赤い風が龍の体を包んだかと思えば、みるみるうちに収縮していく。
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