一章 黄金姫

4/12
前へ
/17ページ
次へ
 風が止むと、そこに龍の姿は消えていた。  かわりに現れたのは、赤い髪に赤い瞳を持つ偉丈夫。  筋肉質でがっしりとした体躯で、小柄なセラと並ぶと頭三つ分ほど背が高い。   「よく似合っている」  セラの顔を真正面から見つめると、臆面なくそう言い放つ。  その声は、先程の龍から発せられたのと同じ声をしていた。 「珍しいわね、ロット。あなたがそんなことを言うなんて」  琥珀色の瞳を丸くしてセラは言う。 「いったい誰の入れ知恵?」  と問われるや、ロットと呼ばれた偉丈夫の赤い瞳は、セラの後ろに控えるリネットへ、ちらと視線を送る。 「素直にお褒めになるのが良い、とアドバイス差し上げただけですわ」  と、とぼけるリネット。 「もうひとつアドバイスいたしますと、もっと具体的な例をあげてお褒めになるのが望ましいですわね」 「具体的…というと?」  誰も龍であるロットには、なかなか意見など出来ないものだが、リネットだけは弟にでも接するかのように気安く接する。  ロットがセラのもとへやってきて十年。  人間の社会に馴染めるよう、教師役を買って出たのは他ならぬリネットである。  人間よりも大きな体を持ち、人間では持ち得ぬ力を誇るロットが唯一頭の上がらない存在が、このリネットなのである。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加