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風が止むと、そこに龍の姿は消えていた。
かわりに現れたのは、赤い髪に赤い瞳を持つ偉丈夫。
筋肉質でがっしりとした体躯で、小柄なセラと並ぶと頭三つ分ほど背が高い。
「よく似合っている」
セラの顔を真正面から見つめると、臆面なくそう言い放つ。
その声は、先程の龍から発せられたのと同じ声をしていた。
「珍しいわね、ロット。あなたがそんなことを言うなんて」
琥珀色の瞳を丸くしてセラは言う。
「いったい誰の入れ知恵?」
と問われるや、ロットと呼ばれた偉丈夫の赤い瞳は、セラの後ろに控えるリネットへ、ちらと視線を送る。
「素直にお褒めになるのが良い、とアドバイス差し上げただけですわ」
と、とぼけるリネット。
「もうひとつアドバイスいたしますと、もっと具体的な例をあげてお褒めになるのが望ましいですわね」
「具体的…というと?」
誰も龍であるロットには、なかなか意見など出来ないものだが、リネットだけは弟にでも接するかのように気安く接する。
ロットがセラのもとへやってきて十年。
人間の社会に馴染めるよう、教師役を買って出たのは他ならぬリネットである。
人間よりも大きな体を持ち、人間では持ち得ぬ力を誇るロットが唯一頭の上がらない存在が、このリネットなのである。
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