賽は投げられた

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賽は投げられた

「今日は特別な日だ」 僕が万感の思いを込めて切り出すと、夏実は思い切り“腹が立ちました”という表情になった。喜怒哀楽をはっきり示すところは彼女の魅力のひとつであると僕は思っている。 本心が見えない相手だと、こちらも余計な気を回さざるを得ないことがあって面倒だからだ。 「どういうつもり?」 すごんでくる夏実の目は先ほどよりも赤い。会って早々に目の赤みを指摘した僕に、彼女は『彼氏に好きな人ができてフラれた』と泣きそうになりながら教えてくれたのだ。それに対する僕の反応が『今日は特別な日だ』だったのだから、茶化されたと思って怒るのは自然な流れだろう。 「もし夏実が彼氏と別れたら言おうと思っていたことがある。それを言えるってことは僕にとっては待ち望んだ特別な日なんだよ」 言いながら夏実の頬に手を添えると、頬と連動したかのように華奢な肩がぴくりと揺れた。念願かなって平均よりも大きくがっしり成長中の僕は、身体的にはすでに夏実を追い越した。 7歳という年齢差を乗り越えたと実感できる唯一の事項であり、タイミングが来たら夏実に気持ちを伝えようと決心するに至った理由でもある。     
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