第1章

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六.頭痛・冷え性・肩こりの原因となるノルアドレナリンを抑制する。 薬品とは違い、副作用の心配がない薬膳料理として大いに注目されている。 だが、残念ながら、鯉(こい)は、国際自然保護連合では、世界の侵略的外来種ワースト百の一種に指定されている)  この家では風呂は使えなかったが、トイレを自由に使用しても良かった。  大家さん夫婦が、家に入って十分ほどして階下に降りて行くと、般若のような恐ろしい顔をした大家さん夫婦は、先を争って緋鯉(ひごい)を手づかみで、生きたままのまだピチピチと暴れるボリームある緋鯉(ひごい)を、ムシャ、ムシャ、ムシャ、ムシャ……と厭らしい音を立てて、頭から丸かじりしている。  見てはいけないシーンを見たような気がして、できるだけ音を立てないようトイレに行き用を足し、二階へ上ろうとして夫婦を見ると、先ほどのようにまだムシャムシャと、さも美味しそうに、緋鯉(ひごい)をむしゃぶり喰らっている。  夫婦の両目から血と膿(うみ)のような液体を噴出させ、敷いている座布団が、紅く染まっている。まるで、でた液体を補充するかのように、緋鯉(ひごい)の生き血をすすっているのだ。  夫婦が顔の位置を変え、邪悪な赤い光を放っている目を、大きく見開きギョロリと私を睨(にら)んだ。私は、まるで背中に凍った氷柱を入れられたように、ガタ、ガタ、ガタ、ガタ……と震えて、味わった忌(い)まわしい恐怖のために、その場に棒立ちになってしまった。いくら、この場から逃げだそうと足掻(あが)いても、まるで金縛りにあわされたかのように、身動き一つできない。  老人は、悪魔のような凄絶な笑みを顔に貼りつかせて、キンキンと脳髄(のうずい)に響く声で言った。 「イヒヒヒヒ……あんたも、こちらにきてかじってみなはれ。美味しくて、病みつきになりまっせ!」  私は、恐怖と悪寒に襲われた。   全身震えながらも、何とか言葉を紡(つむ)ぎだせた。 「け、け、結構です。……お、お、お二人で召し上がって……ください!」  部屋の奥には、水色の照明に照らされている大きな水槽がある。そこから水面上で泳いでいる黒ヒキガエルを、網ですくいながら、二人は手づかみで頭から口に運んでいる。  もう緋鯉(ひごい)を食べ終わったようだ。
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