アングレカムの季節に

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 買い物を済ませた客が出てきて壮士はとっさに携帯をしまった。 「今日もいい買い物ができたわ。それじゃ頑張ってね。」 「はい。有り難うございました!またお待ちしております。」 壮士は得意の笑顔で女性客二人を見送るのだった。 客が見えなくなったのを確認して、また携帯を開いた。 同じ学部の先輩からの飲みの誘いのメールである。 しかも、この先輩は壮士の大学で一二を争うほどの美人であった。 しかし今日は閉店の夜八時まで仕事なのだ。壮士は行けるはずもなかった。 断りのメールをしようとしていたときだった。 「ちょっと。勤務中に携帯禁止なんだけど。」 「あ、すみません・・・。」 「常識だよ。気を付けてね。ってまたどうせ女の子からのお誘いでしょ?」 「何でわかるんですか?」 「君の顔見てたらわかるし。もちろん断ったよね?」 「あ、当たり前じゃないですか。それに先輩からだったので大丈夫です。」 「何が大丈夫なの?」 「俺、年上の女性に興味ないんですよ。だから別にいっかぁって。」 「はぁ・・・呆れた。その発言、私に喧嘩売ってるように聞こえるんですけど?」 「別に喧嘩売ってないですよ。年下の女の子にしか魅力を感じないだけです。」 梓は心の中で「顔が良くてよかったね。」と思うのだった。 それから軽く壮士の足を叩き、また店の中へ戻って行こうとする。 「あ、ちょっと待ってください。まだ外掃除やるんですか?」 「・・・中入ってきていいよ。」 「はい!」
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