アミュレット

幸福を告げる

　
　その日の帰り道。
壮士は一人で電車に乗りながら、以前授業で習った不倫の物語のことを思い出していた。どうして人々は、悲しむ人がいるとわかっていて不倫をしてしまうのだろう。
自分にはわからない、と壮士は今日のポニーテール姿の梓を頭に思い浮かべた。

(本当にあなたのことが好きだけど、この気持ちを伝えたらきっと彼女を困らせてしまう。それはしたくない。世の中には口に出すことができない恋もあるんだ。ただ、そんな自分でも一つだけできることがある。彼女を守ることだ。あの男から彼女を守る。それが俺の役目だ。)

と壮士は拳を握りしめた。大好きな彼女がずっと笑って居られるように。