幸福を告げる

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   梓は浴槽に浸かりながら、自分の痣だらけの腕を眺めていた。 あまり見ないようにしているが、嫌でも目に入ってしまうのだ。 これは元之の兄、元貴に強く掴まれて付いたものだった。 この嫌がらせは二年ほど前から始まっている。 その理由が梓には全くわからなかった。 元之は兄の話をしたがらないが、結婚する前に一度だけ話したことがある。 そのときに、兄は荒れた性格だから関わらない方がいいと言っていた。 梓は、きっとこの痣のことを元之は知らないだろうと思った。 最初は元之を守るためだから仕方ない、と一生耐えるつもりでいたが、少しの希望が見え始めた梓は、耐えることが辛くなってきていた。 少しの希望とは壮士のことだ。彼と出会ってから、自分が変わっていくのを梓は感じていた。 壮士と関わることで、梓は昔のように心から笑うことができるようになったし、昔のように人と楽しく会話ができるようになった。 今日だって故郷のことを、自分でも驚くくらい沢山話してしまった。 梓は嫌がらせを受けることで、自分のことが嫌いになり、自分の話をすることも少なくなっていたのだ。 梓は変わりつつある自分への嬉しさと、元之のことを愛しているのに守ることに疲れてしまった申し訳なさに涙が溢れ出てきた。 (ごめんなさい。元之さん。私にはもう無理かもしれない。あなたのことが好きなのに、あなたは私のことを・・・。) 梓は一年ほどの前のあの恐ろしい光景が頭によぎり、頭を押さえた。 あれは私の見間違いよ、早く忘れないとと浴槽から出るのだった。
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