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「吉野さん、焦ることなんてないからね。本当に好きな人と付き合うんだよ。」
「はい!では、お休みなさい。」
彼女は二人にお辞儀をし、足早に去って行った。
壮士は取り残され、気まずくなっていた。
名前と大学が知られた以上、無断で帰るわけには行かない。
「高坂くん。今日の事、秘密にしておいてあげようか。」
「え?いいんですか?!」
「まぁ条件があるけどね。」
「条件・・・?」
「はい、コレ。」
車椅子の女性は鞄の中から名刺を取り出し、壮士に渡した。
シンプルなその名刺には『雑貨屋マーブル店長三浦梓』と書かれていた。
「私こういう者です。もうすぐ十二月でしょ?十二月といえば・・・そうクリスマス!クリスマスシーズン中だけお店手伝ってほしいの。忙しくなるからね。」
「え、それだけでいいんですか?」
「それだけって・・・。何かと不自由な私にとったら、お手伝いが一人いるだけでも凄く助かるの。働いてくれるってことでいいよね?」
「もちろん!何でもします!」
「じゃ、よろしくね。」
壮士は胸を撫で下ろした。
未成年とのみだらな行為が大学に知れたら停学じゃ済まされなかっただろう。
三浦梓の優しさに救われたのだ。
「それともう一つ。これは注意ね。女の子遊びは程々にすること。それから未成年には気を付けて。これからは女の子の気持ちも考えてあげないとダメだよ。」
「はい・・・。」
初対面の女性に説教されて壮士は恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
壮士がうなだれている中、梓は自分の腕時計で時間を確認していた。
気が付けばもう十時を回っている。
二人は連絡先を交換し、後日また会う約束をして別れた。
これが二人の最初の出会いだった。
壮士からすれば最悪な出会いとも言えるだろう。
現にこの日の出来事は、壮士にとって誰にも言えぬ黒歴史となったのだから。
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