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「今日は特別な日だな」
細いのに車通りの多い道を並んで歩いていた悠馬が、寒空に白い息を燻らせながらそう言う。
「なんで?」
その20cmくらい上にある横顔をちらっとだけ見て、すぐまた足元に視線を落とし両手をポッケに突っ込みながら、可愛げのない声でそう聞く。
「生きてるから」
「…なに、あんた死ぬの?」
余命いくばくもない系?と聞くと、悠馬はふふふと変な笑い方をして、私と同じように両手をポッケに突っ込む。
「死ぬほど寒いのに生きてるから」
悠馬が寒がりなのを思い出して合点し、今年初めての氷点下を記録したことについて話しているのだとわかった。
「マイナス1度程度で人は死にません」
「美菜だって朝は『寒すぎて死ぬ』って言ってたじゃん」
そう言って軽くぶつかってくるのを避けきれず、車道側に数歩よろける。
「あぶな、殺される。近寄らないで」
「そんな強く押してないよ」
足腰弱すぎ!と笑う悠馬に、私は言い返そうとしてやめた。
170以上あるあんたと、150の私じゃ力が違うの当たり前でしょ、と言う前に、そうじゃないなって思い直す。
あんたは男で、私は女だよって。言おうか迷った。
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