宇宙帆船レース

1/35
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ

宇宙帆船レース

   宇宙帆船レース  それは一匹の白い仔猿だった。 人工的に造りだされたスペース・コロニーの世界で、めったに見かけない生きた小動物の姿に、少年は目を奪われた。 「どうしたの、大地?」 いっしょに歩いていた友達が彼の様子に気づいて尋ねた。               「ごめん、フィービー。先に帰ってて」   大地と呼ばれたその少年は、そう言うなり仔猿を追いかけて駆け出した。         人工太陽の光が調節されて、町に夕暮れが訪れようとしていた。           辺りが暗くなってゆく中で、仔猿の姿は白くくっきりと浮かび上がって見失うことはなかった。                   高層ビルが立ち並ぶなかで、唯一緑がある空中公園へ仔猿は向かった。        大地のはきなれたスニーカーが、公園の土をふみしめて、そして立ちどまった。    街灯の明かりに照らしだされたベンチに一人の男が座っていた。仔猿はその男の肩の上にするするとのぼった。           「どうかしたのかい?」          男が大地に気づいて声をかけた。      「いえ、あの…、その猿、あなたのですか?」     
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!