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宇宙帆船レース
宇宙帆船レース
それは一匹の白い仔猿だった。
人工的に造りだされたスペース・コロニーの世界で、めったに見かけない生きた小動物の姿に、少年は目を奪われた。
「どうしたの、大地?」
いっしょに歩いていた友達が彼の様子に気づいて尋ねた。
「ごめん、フィービー。先に帰ってて」
大地と呼ばれたその少年は、そう言うなり仔猿を追いかけて駆け出した。
人工太陽の光が調節されて、町に夕暮れが訪れようとしていた。
辺りが暗くなってゆく中で、仔猿の姿は白くくっきりと浮かび上がって見失うことはなかった。
高層ビルが立ち並ぶなかで、唯一緑がある空中公園へ仔猿は向かった。
大地のはきなれたスニーカーが、公園の土をふみしめて、そして立ちどまった。
街灯の明かりに照らしだされたベンチに一人の男が座っていた。仔猿はその男の肩の上にするするとのぼった。
「どうかしたのかい?」
男が大地に気づいて声をかけた。
「いえ、あの…、その猿、あなたのですか?」
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