第二話 狸

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武士は木刀で素振りをしている。 寒さで手はかじかみ、木刀を落としそうになる。 落とすと20回の腕立て伏せが待っている。それを意識すると、緩む手に力が入る。 父親が見守る中で、武士は必死に木刀を振った。 500回の素振りを終え、武士は木刀を放り投げそうになったが、とっさに胸に抱えた。 放り投げると、父親の怒声が飛んでくるのだ。 近頃はそれはなくなった。 武器は心を持っており、軽んじて扱うといざという時に最大限の力を発揮してくれないのだ。 (今のは危なかった…。) 忘れていたが、自分は練習しているのではなく実戦をしているのだ。そういう気持ちで素振りもしていないと、後で痛い目を見る。 そっと床に座り、そばに木刀を置いた。 すぐに横から、白湯が入った茶碗が置かれる。 「ありがとう。」 武士は白湯をイッキに飲んだ。 「少し休んだら、次のことをするからな。」 父親も茶碗の中身を飲んだ。 「まだやるの?」 息子は露骨に嫌な顔をした。 「毎日、同じことをやっても成長がないだろう?」 「まあ、そうだけど…。もう少し休んでからでも。」 「いつ何が起こるかわからないからな。できるだけ早く習得したほうが良いだろう。」     
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