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「心配するな。彩さんは、そんな器の小さい人ではないよ。」
「そう言われても…。」
「まあ、すぐにはそう思えないだろうな。ところで、この仕事はやっていけそうか?」
急に話題を変えられ、武士はどきりとした。
(こんな大事なこと、簡単には答えられないよ。)
武士はゆっくりと頭の中で文章を練ってから言葉にしていく。
「えと…先のことはよくわからないけど、今はこの仕事をとにかくやりたいっていう思いが強くて…。」
「そうか、それならそれもいいかもな。」
父親は茶碗の白湯を飲み干した。
「えと、この仕事って、嫌にならない?」
武士は、わるいことをきくような気持ちで訊いた。
「まあ、それは、あるな。」
「あるんだ。」
「あるけどな、請け負った仕事は最後までやらないとな。それに、家族や会社があるから、逃げ出せないだろ。」
「やっぱり、そうだよね。」
「そうなんだけどな。武士、お前はそういうことを気にせず好きにやっていいからな。」
「…うん。」
「さて、続きをするかな。」
二人は立ち上がった。
「えーと…ビーズワックスを1kg入れたから、オイルは10mlだっけ?」
彩がひとりごとを言いながら、ロウソク作りの材料を溶かしている。
大鍋にビーズワックスを入れ、コンロの火で溶かす。
その間に、ダイアンはロウソクの型を用意していく。
溶けたビーズワックスを小さな鍋ですくい、並べられた型に流し入れていく。
そこへ固まる前に、バラのオイルを数滴ずつ落としていく。
すべての型に入れ終わると、彩は椅子の上で体を2つに折った。
「やっと終わった…。」
「ご苦労様。ありがとうね、手伝わせて。」
「私もロウソク作りを復習したかったから。でも、こんなにたくさん、どうするの?」
「結婚式で使いたいそうよ。」
「へー、そういうひともいるんだ。」
「それはそうと、武士とはうまくやっていけそう?」
彩は口に入れた大福を緑茶で流し込んでから話した。
「えーと…友達としてならね。仕事のことをいうと、宮本さんは怖がるから、いつまで続くかわからない。でも、何だかやる気を出しているみたいだから、そのやる気がずっと続いてほしい。父親に鍛えられれば、少しは逃げ出すことが減るかも。」
「そう。なんとかなりそうね。」
ダイアンも緑茶で一息入れた。
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