第二話 狸

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「宮本さんってさ、普通の人とは違うでしょ。というより、あの人って何なの?」 「もう分かったの?」 「そりゃあ、わかるよ。精霊の声は聞こえるようになったし、村正の扱いだって上達していってるし。短期間にここまで成長するなんて、普通の人間にはありえないことでしょ。それで、どういう種族なの?」 ダイアンは緑茶を彩と自分の茶碗に注ぎ、急須を置いた。 「それは個人情報だから、私から話すことはないわ。」 彩は困った顔を見せた。 「でも、これから危険な目にたくさん合うかもしれないし、そうなった時の対処のためにも知る必要はあると思うけど。」 「ダメよ。これは、武士の家族との約束なの。いつかあなたに話すわよ。」 「約束か…。それなら、仕方ないか。」 彩はお茶を口に入れた。 「それは諦めるから、何かあった時はどうすれば良い?」 ダイアンは少し考え、口を動かした。 「自分で考えなさい。でも、いくら考えてもどうにもならない時は、私か、あの子の父親に電話しなさい。」 「でも、電話がつながらない時は。」 「それはその時よ。あなたが対応する必要があるのよ。」 「対応する必要がある…か。やっぱり、そうなるか。」 諦めたように彩は言った。 「あのね、何が起こったとしても、それはあなたなら乗り越えられるから与えられるのよ。大丈夫よ。あなたならできるわ。」 (だから、自分でなんとかしなさいってことか…。) 彩はため息をついた。 「そういうわけだから、次からはあなたと武士だけで行きなさい。」 祖母の言葉に、お茶を吹き出しそうになった。 何度か咳き込み、ハンカチで口元を拭いた。 「い、いえあの、そっ、それは、あの。冗談でしょう?」 彩は祖母の瞳を見つめた。 「本当よ。いつまでも私に頼っていたんじゃ、上達しないでしょう?それに、私もいろいろ忙しいのよ?」 「 え、ででででも、私もまだまだだし、宮本さんだって、もっと手助けが必要だし。二人だけで怪我とか、命落とすなんてことがあったら大変だし。」 彩は必死に口を動かした。 「あなたは案外しっかりしているのだから、 そんなことにはならないわよ。それに、行く前にはちゃんと保護をかけるから。」 「でも、万が一があり得るわけで。」 ダイアンは笑顔だが、瞳には意志の強さが宿っていた。 「私がそんなこと、許すわけないでしょ。」 その言葉に、彩は確信した。
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