膣内鏡

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 救急病棟、そういう呼び方もある。  昼の間は普通の外来診察室が、夜中には救急受け入れ病棟に変わるのだ。幹線道路沿いに立地しているせいもあるだろう。  とにかくうちの病院ときたら、夜勤ともなれば全くもう、修羅場なのである。  外来の看護婦も事務員も夜はいないので、病棟の看護婦がそれらを全て兼任しなければならない。たったの8人で、100人近い入院患者を看て、その上救急車で運ばれてくる重病人や重症患者にも対応しなければならない。  救急車以外の救急患者からの電話も入って来る。  自家用車でやってくる。  とにかく、やたらやって来る。  目の回る忙しさの最中、若い男の声で電話が入った。 「連れの女性が、突然おなかが痛み出したらしくて……」  午後10時。泊りの医師は手が離せない。入院患者だけでも危篤状態の人が何人もいるのだ。集中治療室も満杯だ。  非番で帰宅した外科の医師を電話で呼び出して出勤してもらうことにする。  ただでさえ40時間連続勤務を終えて夕方に帰宅したばかりの医師を、またすぐに呼び出すというのはとても心苦しい。  案の定、留守電に切り替わった。  おそらく、食事もとらずに眠ってしまっているのだろう。  その後も患者の処置の合間を縫って何度か連絡を入れる。  留守電にメッセージを入れてから病室に走り、背中の褥瘡が痛むと訴える老婆を抱きかかえて寝返りをうたせる。手術後間もない若者の点滴を交換にいく。尿毒が回ってうわ言を言うおっさんが呼吸困難を起こしていたので喉に管を入れて痰を吸引する。  突然熱を出した患者の脇腹に氷袋を入れたり、夢遊病で徘徊している老婆を捕まえ抱えて病室へ連れ戻したり、とにかくここは野戦病院かというくらいにてんてこ舞いである。
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