春を待っていたんだ

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ゆっくり走る車窓から流れるガシガシした雪壁と澄んだ青い空。 ひと山超え、さらに綴らに川べりを進んでいく。 いくつかの民家の屋根の遥か高い位置に見えるお堂を目指す。 雪に埋もれた急な階段を横目に、車は綺麗に雪避けされた坂を危なげに登っていく。 キラキラ、パタパタ。 お堂の屋根から溶けた雪が雫になって、軒先に停めた車に当たる。 和尚さんが、今日はこっちに、と停めた車を階段のある奥へ誘導した。 「階段は冬は使えませんから。それに今日は暖かいでしょう。お堂の雪が落ちると車が潰れてしまいますからね。」 キラキラ、パタパタ。 ネーチャンからも雫が落ちた。 「お電話頂いた時は、おばぁちゃん猫が亡くなったと思ったのですよ。」 ネーチャンはウグウグしたまま首を横にふって、シオヤサンが和尚さんに応えている。 腕の中で抱きしめた籐の籠がふるりとふるえ、ヒラヒラした花びらもふるえる中で、桃の花だけが凜と佇んでいた。
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