第一章 サクラ-2

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そういう状況を考えると、 私たち三十歳手前の女にとって結婚相手を探す時間は残り少なくなっていると見るのが妥当だろう。 「サクラ、 子ども欲しくないの?」 「…欲しい。 できれば…いや、 結婚するなら欲しい」 結婚しても子どもを作らない人はいるが、 妊娠・出産を望んでいるからこそ、 私の周りの女性は三十歳までに結婚したいと考えているのだと思う。 それは私も同じだった。 「だったら、 頑張らないとね」 結婚の決まった女友達には余裕がある。 本人に自覚がなくてもにじみ出る将来への安心感と自分に対する自信。 それが上から目線にも感じられ少し腹立たしい。 そんなこと絶対、 本人の前では言えないけれど。 真紀子と別れデスクに戻ると、 携帯にメールが入っていた。 森村さんからだ。 メールには今日の待ち合わせ場所と時間が書かれていて、 「楽しみです」と一言添えてあった。 そのため、 私も「楽しみですね」と返したが、 それはひどく事務的なものに思えた。 帰りに会社のトイレで化粧を直していると、 隣に総務課の若い女子社員が来た。 彼女も今日は予定があるらしく、 念入りに化粧直しをしている。 少し強めに巻かれた髪、 薄ピンクのフレンチネイル、 アイラインの濃くないナチュラルメイク。 まさに合コンで男子受けをする女子の見本のような子だ。 そんなに薄いのにどこを化粧直しするのかと盗み見していたら、 目元のヨレをコンシーラーで隠しパウダーファンデーションをさっと塗っていた。 最後にコーラルピンクのリップを重ね塗りして完成だ。 ほとんど手を加えていないのに、 キラキラ感が一・五倍増しである。
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