第一章 サクラ-2

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あの女子社員がつけていた香水の香り。 私は香水をつけないから、 知り合いの誰かがつけていたのだろう。 しかし、 いつ、 誰が?そして私はなぜこんなにあの香りが気になるのだろうか。 * あの香りがする 甘くてやわらかい 苦くてセクシー   街でたまに出会う 甘くて優しい、 苦くて切ない ああ、 彼だ。 * 急がないと、 授業に遅れてしまう。 私は生徒会の資料を届けに職員室に寄った後、 化学室へと早足で向かっていた。 職員室と化学室は別々の校舎にあり、 渡り廊下を通って行かなければならない。 この渡り廊下が割と長いのだ。 急いでいけば間に合うが、 化学教師はいつも五分前には教室に来てしまう。    職員室で担任に捕まらなければ、 こんなに急ぐことはなかったのに。 担任の男性教師は最近、 娘が生まれたらしくその話をしたくてしょうがないらしい。 教師、 生徒かまわず娘の写真を見せまくっている。 確かに赤ちゃんは可愛いと思うが、 時と場所を考えて欲しい。 これが親ばかというやつだろうか。 廊下の反対側から、 見知った人が歩いてくる。 あの長い髪は、 山下さんだ。 彼女の両脇には女の子たちがいて、 楽しくおしゃべりをしている。 彼女たちはそれぞれボブヘアとセミロングの艶やかな髪を、 笑う度に揺らしていた。
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