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「あれ? 店長、この看板……」
「んー? ……あぁ、2月やしな。バレンタインの季節限定メニューっちゅうやっちゃ」
「へー……」
店長の字で書かれた看板には、本日のオススメはフォンダンショコラと書いてある。
フォンダンショコラだなんて颯真が喜びそうだなと、甘いものを食べる時にしか見せない表情を思い出してそっと笑っていたら、冷蔵庫を覗いていた店長がひょいとこっちを向いて笑った。
「食うてみるか?」
「っぇ!? いいんですか!?」
「えぇよ~。ちょっと形崩れてもぉて、お客さんに出すには微妙なやつがあんねん」
ほれ、と別添えの生クリームが省かれた状態で提供されたのは、店長こだわりの豆から抽出したエスプレッソが混ざったほろ苦いチョコレートソースをしっとり優しい甘さのケーキに閉じ込めたフォンダンショコラだ。
(……美味しいな、これ……)
ふと頭を過るのは、男も羨むイケメンの癖に超絶甘党の颯真の顔だ。エスプレッソソースがビターな大人っぽさを演出しているものの、きっと間違いなく美味しいと微笑ってくれるに違いない。
「……あの……店長……」
「おー、なんや。レシピ知りたいか」
「っ、なんで……」
「その顔見たら分かるっちゅーねん」
ぺんっと優しい手のひらが頭を軽く叩いて笑う。
「店終わったら、教えたるわ。トクベツやで」
「──っ、はい」
ありがとうございます、と下げた頭を、店長がポンポンと撫でてくれた。
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