Sweetest Valentine

4/8
前へ
/8ページ
次へ
(……ちょっと寒いな……)  出来ればビックリさせたい──焼き加減を電子レンジの窓から見つめながらそんなことを思い付いて、甘い香りを逃がすために窓を細く開けて換気扇を回していたのだが、いかんせん寒い。  窓を開けているのに暖房をつけるのも勿体ないしと、リビングに置いておいたダウンコートに袖を通して電子レンジの前に戻った。 (喜んでくれるかな……)  わくわくとはにかむ顔が電子レンジの窓に映るのが気恥ずかしくてモゾモゾとダウンコートの襟の隙間に顔を埋めながらも、電子レンジから目が離せない。別に見守っておく必要はないのだけれど、なんとはなしに気になって──何よりも嬉しくて楽しくて、くるくると回るココット皿をついついじっと見つめてしまうのだ。  電子レンジから漏れてくる甘い匂いを楽しみながら、さてどうやって手渡そうかと考えを巡らせる。  去年の失敗を踏まえてバレンタイン商戦が始まるギリギリ手前にチョコレート系の焼き菓子を買っておいたのだけれど、フォンダンショコラが上手くいってもいかなくても渡すつもりでいた。  とはいえ、そちらはお店で買ったがゆえに綺麗にラッピングが施されているのだ。フォンダンショコラはココット皿で作っているが、それをそのまま手渡すというのもなんだか味気ない。ラッピングされたものと一緒に手渡すとなれば、余計にその味気なさは際立つだろう。 (……どっかでラッピング用品買うか……でも、今日このタイミングでって、ちょっと……)  恥ずかしすぎる、とモコモコの腕で頭を抱える。  身近にあるものでなんとかならないかとウロウロ部屋の中を歩き回りながら、こういう時こそGoogle先生だ! とスマホに飛び付く。『バレンタイン ラッピング』と検索していたら、焼き上げを知らせて電子レンジが音を鳴らした。  スマホを放り投げて電子レンジの元へ駆けつける。  ぱん、と柏手を一つ。 「上手くいってますように……っ」  なむなむと何かに祈ってから、ぱかん、と扉を開けた。  *****
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加