Sweetest Valentine

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「ただいまぁ……。…………司?」  いつもなら走って出迎えに来てくれるはずの司が、今日に限って玄関に来てくれない。  それどころかどうやら家にいないようで、家の中はシンと静まり返っていて、空気もひんやりしている。  今日は店が定休日だから会いに行くよとメッセージをくれていたにも関わらず部屋にいないなんて。  しょんぼり肩を落としながら、もぞもぞと靴を脱ぎ捨てる。  何かあったのだろうか。部屋がこんなにも冷えきっているのだから、恐らくは昼間に立ち寄ってもいないのだろう。  とぼとぼと長くない廊下を歩いてリビング兼寝室に入る。朝出ていった時のままの部屋の中に、司がいた形跡はやはりない。 (何だかなぁ……)  電気もつけないままこたつの側にしゃがみこんで、ばりばりと頭を掻く。  来るって言ってたのに来ないってどゆこと。遅くなるならなるで連絡くれたらいいのにそれもないし。まさかどっかで事故にでも遭ってんのかな。  ぐるぐる回り出すマイナス思考を止めることも出来ずにコートも脱がないままでいれば、カチャリと鍵の動く音がして弾かれたように顔をあげた。 「ただいま……ぁ、颯真帰ってる?」  聞こえてきた愛しい声に、バタバタと走って玄関へ。靴を脱ごうとかがんでいた司が、オレに気付いてにこりと笑う。 「おかえり颯真」  いつもと変わりない声も顔も焦らされた分だけ愛しくて、なのに放っておかれた寂しさに囚われた卑屈な心がもぞもぞともどかしく揺れる。 「~~っ、司!」 「ごめんね。思ってたより早かったんだね」  寒さに頬を赤くした司が、そんな風に困ったように呟いて笑う。靴も脱がないままのモコモコの腕が、同じようにモコモコのオレをぎゅっと抱き締めにきた。 「ありゃ、冷えてるね颯真も」 「……どこ行ってたの?」  楽しみにしていた分だけ落ち込んで、落ち込んだ分だけ不貞腐れた声に、司が照れ臭そうにはにかむ。 「ん、ちょっとね」  ごめんね、と重ねた司が抱き締めていた腕を離して靴を脱ぐのを不貞腐れたまま見つめていたら、視線に気づいた司がやれやれと苦笑した。 「冷蔵庫の中、見た?」 「…………見てないけど」 「そっかよかった。……じゃ、遅くなったけど晩ごはんにしよっか」 「…………」 「颯真?」 「……」  覗き込んできた司の顔が、オレの表情を見つめた後に困ったように笑って、ごめんて、と頭を撫でにくる冷たい手のひらが悔しい。
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