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一章「マーズ・エンカウンター Side:A」
どこの誰だったか。「宇宙に出れば、人は戦争を止める」なんて言ったのは。でも、大昔の誰かが言っていたことでも、少なくともその言葉は正しかった。ただ、正確ではなかっただけだ。
もしもボクが一言付け足すのなら。「戦争をする余裕なんて無いからだ」、と書き加える。
そう、『戦争』は贅沢品だ。大いなる人的資源と物資の浪費。そんな余裕は、月より外側では、とんとお目にかからない。水一滴。チップ一枚。人一人。それだけ造るのに、運ぶのに、生かすのに。どれだけリソースを注ぎ込む必要があるのか。ボク達はいつも、考えながら生きている。
もしかしたらこの世界のどこかには、シャワーの時間を計らないでもいい世界があるのかもしれない。毎日、好きな食べ物を……例えば、贅沢に鶏肉(チキン)なんかを食べることのできる場所があるのかもしれない。仲間に話すと、たいてい笑われるのだけれど。夢物語なのかもしれないけれど、ボクはどこかにはあると思う。
この世界に住む人類はもう、戦争なんて出来なくなった。
それでも、戦いは続いている。
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