淡雪の如く

7/7
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「何を飲ませた!」 動揺する男をフッと笑う女。 「一緒にいいところに行けるお薬よ」 「ふざけるな!」 男は口から血を噴き出し、体がガクガクと痙攣しはじめた。 「毒か……? そんな……。俺は死ぬわけにはいかない……。春には、子供が生まれるんだ……」 「平気だよ。あんたよりいい男なんて、この世に腐るほどいるもの。すぐに、いい男が見つかるわ」 男は呼吸を荒げ、喉を掻き毟りながら女を睨んだ。 「そんな男を愛してしまう私もまた、同類という事……」 男の口から絶え間なく血が流れ、体を小さく痙攣させながらゆっくりと頭を垂らしていき、そのまま床につけた。 その姿は、男が女に土下座をしていた時と同じ格好で絶命していた。 女は男を見て、一筋の涙を流した。 同時に口からは血が零れ、女は下腹部を優しく撫でた。 「ごめんなさいね。あなたにも雪を見せてあげたかったのに……。けれど、母も父もずっと一緒だから、いいでしょう?」 持っていた小瓶の残りを飲み干すと、女は真っ赤に染まりながら男の横で絶命した。 外では、相変わらず雪が降り続いている。 けれど、その雪はいつしか止み、窓辺の雪も消えて無くなるだろう。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!