平行世界と八分間のミルフィーユ。

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平行世界と八分間のミルフィーユ。

 当たり前にありふれた景色に違和感を感じる時、私は必ず時計を確認する。  『空白の八分間』  それが平行世界を移動した証拠だ。   1  ご親切にも私の眠っていた意識を覚醒させたのはスマホの目覚まし機能では無かった。  厳密に言えば、私を起こしたのは目覚ましの一回目では無いと言う事であり、スマホのアラームに設定された確実に私を目覚めさせるスヌーズという機能によって鳴らされた二回目のノイズによって私は起こされたらしい。  それは私が一度目の目覚ましが鳴っているのにも関わらず、怠惰にも起きなかったと言う訳ではない。これまでの人生で目覚ましが鳴っているにも関わらず、目覚めなかったという経験は一度も無い。なので、私が学校を遅刻する原因は大抵目覚ましをセットし忘れたか、二度寝によるものだ。  それなのになぜ、私は一度目の目覚ましで起きる事が出来なかったのか、その理由は私にとってあまりに明白だ。  『目覚ましの一度目は最初から鳴っていない』これが答えだ。  ある朝のちょっとした違和感。  大抵の人ならばこの違和感に対して何かしらの反応を示したりするのかも知れない。しかし私はあまりにも落ち着いた様子でいつも通りの日常を送ろうとしていた。    「また、飛んだのか。」  大抵の人にとってはあり得ない現象でも、私にとっては頻繁に起こる事であり、日常の一部でしかない。  だから私はこの違和感に対して少しの嫌悪感と「仕方が無い」という諦めしか感じることは無かった。
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