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「あっ。」
勉強机に広げられたままの参考書に違和感を感じた。私の記憶では昨晩私は国語の参考書を広げていたはず。それなのにそこには私の大嫌いな教科である数学の参考書が広げられていた。
「えぇ………。」
どうやら私は『昨晩私が国語の勉強をしていた平行世界』から『昨晩私が数学の勉強をしていた平行世界』に移動したらしい。
数学の参考書なんて買っただけで三ヶ月ぐらいずっと本棚の中に放置していたし埃まみれのはずなのに、そこには私にとっては恐ろしいほど綺麗に使われた形跡のあるそれがあった。
数字を見ただけで吐き気を催す程数学が嫌いな私なのに一体どうしたと言うのか。この平行世界の私は本当に私なのだろうかと疑ってしまう。
たった八分間の差異でもいくつも積み重なればそれは大きな差異となる。昨晩私は何度も平行世界を移動し、八分間の差異をいくつも重ねたらしい。それは机に広げられた数学の参考書と失われた私の睡眠時間が物語っている。
「この平行世界は生きにくそうだ。」
この平行世界が『昨晩私が数学を勉強した平行世界』ならば『数学が好きな私がいる平行世界』なのかもしれない。
だとしたら『数学な嫌いな私』が『数学が好きな私がいる平行世界』にいるのはあまりにも場違いだろう。
この平行世界が『昨晩たまたま数学の勉強をした平行世界』で あって欲しい。しかし、数学の参考書が丁寧に使われていた痕跡から考えるに、それはなさそうである。
せめて『数学が嫌いだけどがんばって数学の勉強をしている平行世界』ならいいのだけれど………。
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