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部屋をでて、そのまま左手側へ向かえば203号室の前を通る事になるんだけど、今の私には勇気が出なくて、右手側の階段を下りて、コンビニに向かう事にした。
「帰りには必ず葉月の家かどうか見る!」と意気込みが声に出た。
都会でも田舎でも商品に違いがないコンビニでの買い物を終えて、私はアパートの前に帰って来てしまった。
来てしまったと思ったが他にどこかに行きたいというわけではない。あまりに近かったので心構えができていなかっただけだった。
ただ、私は浪人生である。時間を無駄にしている暇はなかった。
「よし」
コンビニに向かった時と同じように、意気込みを声に出してアパートの部屋に向かう事にした。203号室のドアまでもう少しのところで、目に入ってしまった。表札がない事が。
表札が無い、ただそれだけだったけどすごく寂しい気持ちになってしまった。トボトボと203号室の前を通り、部屋に帰ろうとしたら、目の前に鉄の塊が迫ってきた。
「あぶなっ」
203号室のドアが勢い良く開いてきた。転がりそうになり、体勢を崩して何とか危機一髪でドアとの抱擁を回避できた。
「うわっ。ごめんねっ。」
うわっってこっちが言いたいセリフを明るい声で私の頭上に降らせて来た声の主は、すごく快活そうな高校生から大学生ぐらいの女の子だった。
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