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「ねえ聖夜…」
ダメだコイツ……
舞花は完全に俺とモノホンの恋人になったと思い込んでる──
失敗したっ…
芸能界最後になるだろうと思って結構ラブラブな恋人を演じてやったっ…
俺の誕生日も一緒に過ごしてかなりいい雰囲気でセックスしたし──
お互いに演じてるのをわかってんだからと“好き”なんて言葉も普通に言ってやった……
ほんの二週間足らずを完璧な恋人役で過ごしてしまった…っ…
週刊誌に取り上げられた時点で俺の役目は終わったと、180度身を翻した──
てことは…
舞花の中で、俺は突然別れも告げずに離れていった恋人になってるわけだ……
「ねえ聖夜っ……」
「ちょっと待って…」
頭痛い。
すげー 頭痛い。
思わぬ展開に頭が真っ白だ。
無言の部屋の中で頭を抱えたままでいると楠木さんから電話が入っていた。
「楠木さん、今、舞花が俺のマンションにいるから迎えにきてくれない?」
舞花から離れて小さな声で語りかける。
「……勤務時間外だぞ」
「……助けて」
「ふ…わかった…行くから」
俺の嘆きに楠木さんの口から微かに含み笑いが聞こえた気がした。
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「藍原さん……二人付き合ったのは、藍原さんを売り込む為のスキャンダル目的だから…」
「……──」
「社長から聞かなかった?……俺は社長に恋人のフリしてくれって頼まれたよ?」
直球だけど言うしかない──
「それは……知ってたけど…」
「知ってた?」
ああ…
そか、ならよかった…
ホッとした。
完全に俺が騙した形にならないだけでも状況が変わる。
舞花はうつ向いたまま、何か言いたそうだ。
もしかして素人の舞花相手に雰囲気を作りすぎただろうか?
演じるってなったら俺はプロだ──
例えカメラが回っていなくても俺は役になりきる。
スキャンダルとしてマスコミに取り上げられるまでは、俺は舞花と熱愛中の藤沢 聖夜という役だ。
うつ向いたままの舞花を見つめると、俺は腕を組んで壁に寄りかかり天井を仰いで溜め息を吐いた──。
セックス──
したのが一番まずかったかもしれない……
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