第9章 疑似恋愛

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・ 俺は長く安堵の溜め息を漏らした。 まさか押し倒されるとは思わなかった…… 「まさかお前が押し倒されてるとは思わなかったな」 楠木さんは俺の思いと同じ言葉を口にした。 勢いを止められて舞花はその場で泣き始める。 「連れてって…」 「了解。…舞花、立って」 楠木さんにお願いすると俺はソファに座り込んで頭を抱え溜め息をついた。 ドッと疲労感に襲われる── 楠木さんに腕を引かれ部屋を出ていった後を見つめると、自分の裸の上半身を見て思いきり苦味渋った表情を浮かべる。 舞花に吸い付かれた箇所をティッシュで拭いて口紅を拭うと一ヶ所だけヘソの側にキスマークがついていた…… 「…くそっ…やられた…」 ヤバイ── 晶さんに絶対見せられない… 思わず頭を掻きむしった。 ・ 今から逢いに行くのになんてことしてくれんだよっ── 「………」 もしもの時を考えて、今日は止めておくべきだろうか? “どこぞのドブにハメたチンチンなんかいらないっ” 「……──」 晶さんは徹底した“赦さない派”だ── 暫し、ソファで項垂れ深く考える俺の携帯電話が鳴っていた。 「……遅いね?何かあった…?」 珍しく晶さんからの電話だった。 普段から時間厳守の俺が予定時刻を過ぎてもやって来ないことが気になったのだろう…。 どうしようか… まだ行くかどうかを迷っている… 「夏希ちゃん?」 「……晶さん」 「……?」 「俺に逢いたい?」 「………」 急な問い掛けに晶さんは口を接ぐんだ。 「………逢いたいよ…」 「………」 また催促して言わせたかな? そう思ったんだけど… 「夏希ちゃんからメール来てずっと待ってるんだけど…」 「……っ」 「まだ時間掛かるかな?」 「…っ…──」 なにそのしおらしい胸キュンな台詞っ!? いったい何のサービスタイムだっ!?──
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